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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2069号 判決

控訴人 財団法人 国際文化学会

被控訴人 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審において追加したる予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

理由

まず控訴人の第一次の請求について判断するに、東京都港区赤坂一ッ木町三十六番の一(もと同所五十六番)の土地のうち原判決添附図面表示の赤線で囲んだ部分七百七十五坪七合一勺(以下本件土地と呼ぶ)が、控訴人が売買によりその所有権を取得したと主張する昭和二十八年十二月四日頃被控訴人の所有であつたことは、当事者間に争のないところである。

控訴人は、被控訴人が昭和二十八年十二月一日附で控訴人に発信した文書(甲第二号証)に対し控訴人が同年十二月四日附の書面(甲第三号証)を発信し、右書面が被控訴人に到達したことによつて、控訴人と被控訴人との間に本件土地の売買契約が成立し、控訴人が本件土地の所有権を取得した、と主張するので、その当否を判断する。控訴人がこれより先昭和二十八年二月二十二日被控訴人に対し本件土地の払下を申請し、ついで同年十月三日追加申請書を提出したこと、その後控訴人と被控訴人の担当係官との間で右払下代金の件で交渉が重ねられ、被控訴人がその予定価格を坪当り金八千八百円と内示したのに対し控訴人がその減額方を申し出で、その解決が延引していたこと、被控訴人が、昭和二十八年十二月一日附で控訴人に対し、「国有財産の売払について」と題し、「貴殿から、本件土地の売払申請があつたので去る十月三十日その売払予定価格を内示したが、未だにその価格をもつて買受の回答がありませんが、きたる十二月十日までに回答して下さい。」と記載した文書(甲第二号証)を発したこと、及び控訴人が同年十二月四日附で被控訴人に対し甲第三号証を発し、その頃右書面が被控訴人に到達したことは、当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三号証によれば、右は、控訴人作成各義で、関東財務局長井上義海にあつて、「受諾書」と題し、「港区赤坂一ッ木町五六番地国有地約七七五坪払下申請に対し貴官の御内示の価格坪当八、八〇〇円也にて払下を受けます。即時契約を結びたいですから御指示願います。」と記載された書面であることを認めることができる。しかして成立に争のない甲第一号証の一、二、同第四第五号証、原審証人西村三治郎、原審(第一、二回)並びに当審証人里村敏の証言、並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、本件土地は被控訴人が昭和二十二年初、河村文輯の主宰する国際文化大学創立委員会に国際文化大学用地として貸しつけておいたところであり、昭和二十四年右委員会が控訴人に本件土地の使用権を譲渡したときも、控訴人の使用目的が公益的であるという理由で被控訴人がこれを承認したものであること、控訴人が昭和二十八年二月二十二日本件土地の清算払下を申請し、ついで同年十月三日正規の払下申請に変更したので、本件土地処分の権限を有する関東財務局長は、国有財産法第二十九条の規定に従つて用途指定の売払手続を進行し来つたもので、その手続にあたつては、予算決算及び会計令第九十六条第十九号、第二十二号の規定に則り随意契約で本件土地を控訴人に売り渡すべく、まず控訴人と価格の交渉中、控訴人に対し売払予定価格を内示したのに拘らず、控訴人は更にこれが減額を求め、本件土地払下手続に一頓挫をきたしたので、手続を進めるために甲第二号証の書面を控訴人に対して発したこと、しかして甲第三号証はこれが回答として控訴人から関東財務局長に対して発せられた書面であること、しかるに控訴人が甲第三号証を発して間もなく、控訴人が本件土地の一部を転売し転買人がその地上に外国人用のホテルを建築する計画のあることが地元民の陳情、転買人の来訪などによつて関東財務局に判明したので、関東財務局長は控訴人の本件土地利用計画が適切妥当でないと判断し、昭和二十八年十二月二十四日附で本件土地の払下を中止する旨通知したことを認めることができる。以上の認定事実に従えば、甲第二号証第三号証の文書の往復は売買契約締結に至る準備交渉の段階における文書の往復であるに過ぎず、契約の申込ないしはその承諾と目すべからざることは明らかである。従つて控訴人との間に本件土地の売買契約が成立したとする控訴人の主張は認め難い。甲第二号証をもつて売買の申込と解すべからざることは、同号証中に、「売払予定価格の内示」という文言があることから考えても明らかであろう。又この甲第二号証の照会に対して発せられた控訴人の回答(甲第三号証)中に、「即時契約を結びたいから御指示願います」との文言が記載されているところから考えても、右回答が契約の申込に即して契約を成立せしめる承諾の意思表示と解すべからざることは、控訴人自身にも明らかであつたというべきである。それ故甲第二号証が契約の申込であることを前提とする控訴人の主張はすべて失当である。従つて本件土地についての売買契約が成立したことを前提とする控訴人の第一次請求は、その余の争点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきものであり、原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。

次に、控訴人の当審において追加した予備的請求について判断する。控訴人は、控訴人が関東財務局長の発した甲第二号証の書面に応じて甲第三号証の書面を発し、これが関東財務局長に到達したことによつて、控訴人と被控訴人との間に控訴人主張の本契約と同一内容の売買の予約が成立したものである、と主張している。しかしながら、前段認定事実ならびに甲第二号証、第三号証が記載せられてあるところを検討しても、被控訴人が控訴人の本件土地売買の申込に対し被控訴人がこれを承諾しなければならない債務を負うことを定める契約片務予約が成立したと認めるべき証拠を見出し難い。さきに認定したとおり、甲第二号証、第三号証は本契約締結に至る準備交渉の一環と見るのが、もつとも事実に即したものである。これをもつて売買の予約が成立したものとする控訴人の主張もまた失当であつて、控訴人の予備的請求もまた理由がないものとしで棄却すべきものである。

よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 猪俣幸一 古原勇雄)

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